シューベルト歌曲集「冬の旅」作品89 D.911(全曲)訳詞
Die Winterreise / Franz Schubert


冬の旅  ヴィルヘルム・ミュラー
訳詩:神崎昭伍

※テキストデータのためウムラウトなどは省略しています。


1 おやすみ


見知らぬものとして私はやって来たが,
再び見知らぬものとなって立去って行く.
五月は数多くの花束で
私に好意をよせてくれた.
あの娘は愛を語り,
母親は結婚のことさえ話していた.
いま世界は暗く悲しく,
道は雪につつまれている.

旅立ちに私は
時を選びなぞできない.
この暗闇の中で
みずからに道を示さねばならない.
月光がうつしだす影がひとり
私の道づれとなってついてくる.
そして白い草原に
私は野獣の足跡を探し求める.

人びとが私を追いやったというのに,
どうしてこれ以上とどまらねばならぬことがあろう?
何をまちがったのか犬たちが飼主の家の前で
遠吠えするにまかせておこう!
愛はつぎつぎと
うつり行くのがすきなのだ.
神がそうお創りになっている.
かわいいひとよ,おやすみ!

私は夢を見ているお前を妨たげたくない,
お前の安らぎが大切なのだ.
私の足背をお前に聞かせはしない,
そっと,そっと戸口へ歩みよる!
通りすぎながら,お前の家の門に
「おやすみ」と書きしるす.
私がお前を思っていたと
わかってくれるように!


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