冬の旅 ヴィルヘルム・ミュラー
訳詩:神崎昭伍
※テキストデータのためウムラウトなどは省略しています。
城門の前の泉のそばに,
一本の菩提樹がある.
私はその樹かげで
多くの甘い夢を見た.
その樹肌に
多くのいとしい言葉を刻んだ,
喜びにつけ悲しみにつけ私は
その樹の方へと引かれる思いがした.
今日もまた私は真夜中に
そこを通りすぎることとなった.
そのとき闇こつつまれた中で私は
なおも眼を閉じた.
そして菩提樹の枝はぎわめき
私に呼びかけているようだった.
「私のところへおいで,友よ,
ここに安らぎがある!」と.
冷たい風がまっすぐに
私の顔に吹きつけ,
頭から帽子がとんで行ったが,
私はふりむかなかった.
いま私はあの場所から
何時闇も離れたところにいるが,
ぎわめきはずっときこえている.
「あそこにお前のやすらぎがある!」と