冬の旅 ヴィルヘルム・ミュラー
訳詩:神崎昭伍
※テキストデータのためウムラウトなどは省略しています。
あんなにも愉しげにぎわめいていた
お前,澄みきった,気ままな川よ,
何と静かになってしまったのか.
別れの挨拶もしてくれないな.
堅く動かぬ氷のからで,
お前はおのれを覆いかくして
冷たく身動きもせず,
砂の中に身をのべている.
お前の氷の覆いに私は
とがった石で
恋人の名前と
時間と日を刻み込む.
初めての挨拶の日と,
私が立ち去った日を.
名前と数字をめぐって
こわれた指輪がからんでいる.
私の心よ,この小川に
おのれの姿をみとめるのではないか?
堅いからの下で
はげしく,みなぎり流れてはいないか?